グローブ屋の諸君の養豚場

 これは?

クッキーモンスター ...が下痢して痩せちゃったの?

いえいえこちらはグローヴァー。
カーミットなんかと並んでセサミのキャラでは最古参のひとり?

そして、禁断の果実とは『あるいは欲しいと思っても手にすることは禁じられていることを知ることにより、かえって魅力が増し、欲望の対象になるもののこと』だそうです。

果実というより豆、金時豆(赤インゲン豆)、キドニービーンズと例えられるギターパーツって何だかご存知?

ご存知GROVERペグ。
このツマミの形から豆呼ばわりされる様になったんですな。

では何が禁断なの?

LES PAULのオリジナルペグはこれまたご存知KLUSON。
しかし、LES PAULのペグをKLUSONからGROVERへ交換する効能をネットで調べてみると、
『やめなはれ!』
『レスポールの音じゃなくなる!!』

あれ?GROVERペグってこんなに風当たりの強い禁断のパーツだったっけ?

ご本家のLES PAULのハイグレードなレプリカ化モデルが沢山作られる様になって、先ずはオリジナルとの「見た目」の乖離をゼロに近づけ、次はオリジナルLES PAULの「音」への各パーツごとの貢献度に注目。
するってぇと、ヴィンテイジ市場にも影響が及び、パーツのネジひとつに至ってもオリジナルかどうかがその楽器の価値とされ、価格に反映される。
う〜ん、『レプリカ化モデル』に関しては上記のベクトルってどうなのかと思うし、ヴィンテイジ市場に関しては『骨董』『お宝』の域にとうとう入っちゃったな〜というのが正直な感想。

では、LES PAULのKLUSONペグをGROVERへ変更する事がどうして『禁断』『蛮行』とまで言われているのか?
大きい理由は2つでしょうね。
その1:ネック(の先端にあたるヘッド)の重量が増加する事による振動の変化→倍音構成の変化。
その2:交換時のヘッド加工の荒さによる悪影響。

ここまで読んでいただいている方はうすうす感づいているでしょうがそうです、
『ウチのLES PAULのペグをGROVER化する=はたしてGROVER化はそれほどまでに禁断なのであろうか?』が今回のテーマです。

100%オリジナルヴィンテイジ至上主義の方はこれまでの書き出しでイヤな予感がしていたかと思いますが、でもウチのは以前にご紹介した通りすでにこうですから、
いまさらの蛮行に驚き召さるな。

そういえばオリジナル状態の写真って残ってないのかなと思って探したらこんなの出てきました。
ボケボケ解像度失礼。
スタジオの鏡越しですから当然左右が裏返ってます。

ま、この時は購入直後でしたから、それこそネジひとつに至るまでのオリジナルだった頃ですな。
よくある50年代レスポールの伝説にその『軽さ』が上げられますが、こちらもそうです。
しかも特徴的なのが『ネックが軽い!』と感じる事。
どういう事かと言えば、上の写真の様にストラップで肩から吊るした際に、ネックがピンコ立... あいや、ヘッド側がスッと持ち上がる様なバランスでおさまるのですな。
いえいえネックのグリップは決して細くありませんよ。むしろ太い方。
重〜い鉄のトラピーズブリッジだったからなんじゃ?
いえいえ、アルミのラップアラウンドに交換してからもそれは一緒。
この軽〜い(?)ネックの振動によってあのレスポールの音(倍音構成)が成り立ってるのだから、そこにKLUSONに比べ100g以上の重量差のあるゴツいGROVERを付けたら音変わっちゃうっしょ!というのもごもっとも。

《追記》アクセスの多いこのページなので追記しますね。ネックが軽いと感じたのは、バランスが実に優れてるんです。初代モデル(1952年製)ですからね。全く新しい、初のGibsonのソリッドボディギターを開発するんですから、持った時のバランスだってベストなものにするはずです。わざわざバランスの悪いものをエクスキューズしながらリリースしたりしないでしょう。

で、何が言いたいのかと言うと、この後様々な再生産以降のレスポールを手にして比較したところ、この52年が歴然として異なるのは「ボディの軽さ」です。
50年代のレスポールは初めてという方に持たせてみると、「セミアコですか?」なんて聞かれたりします。
前言撤回のようになってしまいましたが理由は先に挙げた通りで、さらに言うと、ボディは鳴りやすくするために軽くなくっちゃダメでしょしかも同じ木材使ってるんだし。
でもこの回の後半に出てくる「軽くて加工しやすいのに大変頑丈」な印象をネックに抱いたのも事実で、そのモヤモヤをヴィンテイジギター屋さんに
「あの時代のレスポールのネックってマホガニーだけど硬いよね?鳴りの秘訣ってことでしょ硬いのが、ねぇねぇ硬いよね?」なんて詰め寄り、
「はいはい硬いですよ」なんてはぐらかされてましたが、そういうことでしょう。
で、ボディも軽い。

?どっちも軽くって同じホンジュラスマホガニーだったら体積の小さくて細長いネックばっか振動しちゃうじゃないのさー。

そこですね。木は工業製品ではないのです。
もうおわかりですね?

以前、クラシックバレエを取り上げた番組を観ていたら、ゲストの美輪様が
「最近はスタイルのいいバレリーナが日本でも育ってきましたわね。昔は芋の煮っころがしが踊ってるようだったけれど」
さらに別のゲストの方がロシアのバレリーナが来日した際のコメントを引用して
「日本ではバレエを好きな方がバレエを踊っていますね。でもロシアではバレエを踊らなくてはいけない人が踊るんです」
何ちゅう厳しいご意見と思いましたけれど、物事の本質を見事についてますね。

同じホンジュラスマホガニーでもネックに使うべき部分とボディにべしのそれとは異なるっちゅうことです。
50年代のGibsonの社長といえばテッドマカーティですが、自ら木材の買い付けに出向いたり、大学の研究チームと一緒にメイプルの木を観察して「あの右から3番目のがカーリーメイプルだ」なんてやっていたそうで、やはり「その時」の人はスゴイですね。
ほんと習うことあります。

もう絶版ですが、リットーミュージックの「THE GIBSON」に載ってるテッドとセスラヴァーのインタビューは是非読んでください。きっとアナタやアナタの周りの足りないものを気づかせてくれますよ。

して、60年代後半からはバンドブームになっちゃって、ギターもいっぱい作らなくっちゃってんで、同じ木でもこっちはなんて事も出来なくなって、後は推して知るべしでございます。《令和元年 5月》

ではなぜ付け替えようと思ったのか?それは弦振動のバランスです。
ある日気付いたのが、解放弦を鳴らした際の3弦の振動の仕方が他の弦と明らかに違う。
ちなみに79年製のおチェリーは揃ってます。試しに、KLUSONとGROVERの重量差である約120gの重りをヘッドに挟んでみると、その不揃いの差がかなり少なくなります。
ははぁ、これって昔(80年代)コンポギターがはやった頃話題になった『デッドポイント』をずらす解決策だな。
そして肝心な音の変化はというと、独特のミッドレンジの倍音が均される感じでしょうか。
これが、KLUSON死守派が声高に言う『レスポールの音じゃなくなるっ!』という事なのでしょう。
その気持ち解りますね。確かにこの時(重り挟み込み実験時)の音の変化そのままが、GROVER化によって出現してしまうのであればかなり躊躇したと思うのですが、何故か『たぶんもっと良くなる』といった妙な明るい未来を予感してしまうのが私の良いトコロでしょうか。

さて『蛮行』の理由の2番目である加工の荒さ=言い換えれば『ロトマチックペグ交換あるある』。KLUSONペグ用に開いているヘッドの穴では、GROVER等のロトマチックペグの本体側が入らないため穴を広げる必要が出て来ます。

そんな事実に一番最初に気付かされたのは、今から30年以上も前ですが、その頃に手に入れて今でも持っているのがテーパーリーマーという工具。
円錐状の穴広げ機といったもので、ごく薄い板なんかでは重宝ですが、ギターのヘッドの様な厚い素材の穴を広げようと思ったら、必要以上にその入口が広がってしまうのは自明の理なのですが、解っちゃいるけどで当時グレコのストラトだのに『蛮行』した覚えがあります。
しかも場合によっては、ヘッド表面からも穴を広げる必要を迫られ(裏から差し込むペグ本体の太い部分が思いのほか長く、裏側の入口の穴径をもうこれ以上広げたくないから/ヘッド表から差し込む筒状のナットの先の部分がKLUSONの穴サイズでは入らないから)、そんな裏表のグリグリを手作業でやっていたら穴の中心線自体が真っ直ぐでなくなってしまったりと、取り返しがつかなくなってしまうのであります。
これを『蛮行』と呼ばずしてなんとしましょう!誰か止めてー!キーっ!!確かにそれは得策ではありません。

ではどうするか?

プロは揺るぎなき中心線で真っ直ぐに掘り起こすボール盤なぞの大型機材に、削りすぎ防止の加工をしたドリルビットか丸鑿を取付けてやるのでしょうが、何かウマい方法はないかと思ったら、こんなものがあるのですな。

通称「ステップドリル」。

早速アマゾンヌして取り寄せ、写真の中央のステップの幅が長いものを使用。6段階のステップのうち、3/8インチ(9.525mm)の太さでグリグリ。
ステップ幅は、GROVERのヘッド穴に挿入される太い部分の長さにほんのちょっと足りないのですが、その次の太さのステップで、今開けた穴の入口の面を取るつもりでやれば何とかなるかなぁ?と試技。

実験台は家に転がってたガラクタネックで行いました。結果は、GROVERの『ヘッド穴に挿入される太い部分』はもうほんの少し太い様で、そのまま無理矢理押し込んでヘッドにいずれひびが入っても行けませんので、とりあえずステップドリルで開けた穴を、棒にペーパーヤスリを巻き付けたもので徐々に慎重に穴拡張。

ヤットコすぽっと入る様になり、バッチリ挿入。
ちなみに、ヘッド表側の穴は無加工で済みました。つまりオリジナルKLUSONのブッシュを取り除いた穴のまんま。

後で知ったのですが、『プロペラリーマー』なる、模型飛行機のプロペラに軸穴を開けるリーマーというのがあって、これはテーパードではなく、ステップドリルの様に段階式で、ステップ幅もステップドリルより長そう。
その他、海外の楽器用工具販売のサイトなんかでは、ロトマチックペグ下穴用の専用工具なんかが売られてたり、実践動画があったりするのですが、なんと10mmサイズで開けちゃったりしています。

ということで、私めは手作業でギリギリサイズの下穴を見事に開ける事が出来ました。
本番でホンジュラスマホガニーのヘッドをステップドリルやペーパーヤスリでサクサク削っていると、何かとても軽いにも関わらず大変固い素材のものを削っているという、不思議な感覚に囚われます。
決して削りにくくはなく、加工自体は楽なんですが。ロズウェル事件の際に墜落現場にあったUFOの破片を手にした人が口々に言っていた『ものすごく軽いのに大変頑丈な素材』というのをふと思い出しました。

さて、『蛮行:その2』はクリア。
KLUSONのブッシュ穴はそのままなので、KLUSONに戻したければいつでも出来ます。ま、結果として戻すつもりはないんですけどね。
とりあえず取付けて思った事は、『やっぱりヴィンテイジGROVERはいいなぁ』ということ。



形も現行GROVERとは全然違うもんね。
以前ヴィンテイジのクロームをあるギターに取付けた時にもしばし悦に入ってしまいました。
ヴィンテイジGROVERのファンの方がまたこだわるポイントとして有名なのがトルク調整のマイナスネジなんだそうで、こちらもご多分に漏れず
イイねぇ。
ポストも思ったほどヘッド表面から飛び出してはいません。このちっこくて厚みのあるナットもどデカイワッシャーも結構好きなんですよねー。

「あ〜あ、やっちゃったのね。KLUSONのシンプルさこそ50'sGIBSONなのにね〜。何その金ピカは?」
そんな声が聞こえてきそうですが、確かに、KLUSONの控え目でいて質実剛健?な佇まいは代え難いものですよね。
ちなみに付け替え前のアップはこちら。
ではなぜ、私めがいかにもの50's GIBSONフェイスにおさらばしてまでGROVERを選んだのか?

それは見た目が最優先ではありません。
先も書きましたが、『蛮行:その1』の「弦振動の変化」をポジティヴに欲したからであります。
交換前に気になっていた3弦の振動、振幅も改善され、音の暴れと特徴的だったミッドレンジの紙一重も、適度に均された事によって落ち着き、むしろ低音弦(4〜6の巻き弦)のテンションのコシと音の張りがかなり増したことは、たいへんウレシイ変化でした。

交換前の重り実験時に『何故か「たぶんもっと良くなる」といった妙な明るい未来を予感してしまう』と書きましたが、解放弦のバランスから気付いた鳴りを改善しようと言うハッキリした理由があって取り組んだ今回のペグ交換ゆえに、その狙ったポイントはきちんとクリアしつつ、相乗効果としての「もっと良くなる」結果が得られたのかも知れません。

『このパーツを付けると音が良くなる』といった魔法のふりかけ的なものを求めた漠然としたものではなかった事、もともとのギター本体の作りの良さ、素材の良さあってこその効能、だからこその良い結果だったのだと思います。

『蛮行:その1』の汚名もこれで返上でしょうか。

先生、それでは是非ロトマチック推進党、略して『ロ党』の党首としてひとつお起ちいただいて...

いやいや、そげなアホなパーティなぞ誰が立ち上げるものですか!また、全ての50'sLES PAULにはGROVERがオススメなんてことを言うつもりもさらさらありません。
トラピーズブリッジからラップアラウンドへの変更、ハムバッカー搭載の為のピックアップキャビティ加工etc.と、オリジナルの状態から変化してく過程で、浅いネック角度も相まって、テンション、弦振動が微妙に変化して行ったと思われる私のこのギター。

仕様が固まった時点での最後の検証に対するソリューションが、今回のGROVERペグ装着だったという事です。
あくまでこの個体に発生している事象に対峙して行った事であるわけです。
何も毎日毎時間、そこまで理屈立てて考えているわけではありませんが、
『GROVERにするとLES PAULの音じゃなくなっちゃうんだって』といった受け売りは絶対しないという事です。

また、ご飯の味を美味しくしたくて魔法のふりかけを求めてお金払ったりもしません。

ちなみに今回のブログのタイトルは、
退屈を持て余したある少年国王が、知人の某国情報員に悪戯を仕掛けようと私生活を覗き見ロボットで覗き見。そこで聴いた情報員の過去に関する言葉を国王直属の部隊に調査させる際に言ったセリフです。

本当は『グローブナー将軍の養成所』なのですが、重要なのはその名称自体ではなく、そこで一体何があったかでそれを知りたいということです。

情報収集が多様で容易く、しかしあまりの情報の多さにその玉石を見極めようとするだけでオツムがシューシューいってそこで終わってしまいがちな昨今をどう生きるべきかなんて言われて久しいわけですが、受け売りだけはやめましょうね。

何が起きていて何が重要でなんてことは、当事者である自分が誰よりも一番解っている事だったりします。  

コメント

ベニマロ さんのコメント…
私も所有する55年製と59年製のジュニアのペグをグローバーに交換した経験があります。しかも自分で、それもリーマーで取り付け加工するという蛮行を。

結果、音は良くなったと感じています。他人様の評価は如何な物かは知りませんが、少なくとも所有者である私は満足感を得ました。
ラブとしや さんのコメント…
あっ!ベニマロさん!!

コメントありがとうございます。

そうなんですよね。何とか質問箱とかで素朴な疑問が上がると、「〜の音じゃなくなる」とか平気でコメントする方がいらっしゃるのを見かけると、何だかなぁ〜と思ってしまいます。

質問している人のギターはバーストなの?GOLD TOPなの?ヒスコレなの?トーカイ?etc.etc... その辺を思い描いて答えを提示してるんですかね?

私も事あるごとにネットで情報を集めたりしますが、求めているのは"PREACHER"ではありません

https://www.youtube.com/watch?v=UoRb8hxwluE

というのはROCK世代なら当たり前に持っている感覚なのですが、少し若い人達の事が心配になったりもして、よせばいいのにつれづれにブログを行っております。

いつかお会いしたいですね、機材付きで。酒田で?